劇場版 空の境界 第6章 忘却録音( 原作比較視点 )

●原作と劇場版の違いを原作厨的に比較します●
●まず、劇場版にしてしまったがために、原作:忘却録音の魅力が損なわれたであろう箇所を検証します。
・また、前提にこの記事は「劇場版 空の境界」のみを見た人にもっとも有効な構成になっています。
●劇場版 忘却録音 公開前の原作厨の期待する部分とはなんだったのか?
・一つ目は、玄霧 皐月(くろぎり さつき)の能力や、存在感への期待だったと思う。
・原作の玄霧皐月は、視覚情報からの記憶と事実が確認(再認)できない特異な身体障害を持つ。

・しかし、一般人のように振舞うことが出来るのは、人の特徴を言語で完全に記憶しているのため。
・何度もあった人物とも彼は初対面にしか感じないのだが、特徴の言語化から推察し相手を誰だが特定できるからである。 つまりは、言語情報からの再認を持つ特殊な人間だった。
・そうなるまでのいきさつが、原作では魅力的に描かれているのである。
・玄霧皐月は幼少期に妖精にたぶらかされて、神隠しにあい視覚からの再認が出来なくなったこと。
・神隠しから戻った玄霧皐月は廃人状態で、両親が魔術協会へ預けることになり「統一言語」を話す事が出来る唯一の人間と協会側から認識され観測の対象になった。
・実際のところ魔術師ではないが、バベルの塔時代前の統一言語「マスター・オブ・バベル」を現代によみがえらせる。
・統一言語は神代の世界との会話を行う魔術を超えた言語であり、彼の言葉は「世界」からの命令と同義となり、その命令から逃れることが出来るのは同じ統一言語師だけである。
●統一言語師「マスター・オブ・バベル」ではなくなった劇場版の玄霧皐月
・残念ながら、これほど危険な封印指定の魔術師だった玄霧皐月の能力は、言葉で人を操る言霊師にまで堕とされてしまった。

・つまりは、言語で相手に命令を与えるのだが、「世界からの命令」では無いので、耳を塞ぐだけで回避可能になってしまった。
・この設定変更も当然理由があるのだが、原作で統一言語師である玄霧皐月に魅力を感じた人は多いと思う、わたしもそうだったので。
・でも、それはそれで、劇場版 忘却録音は別の処に魅力あるのです。

●もう一つの大きな原作との変更点
・葉山秀雄(原作では英雄)の行動の全てである。

・原作では礼園女学院の教師にもかかわらず、品性下劣な悪人で、クラス全員の女子を援助交際や一方的なセフレとして利用し、自己資金源としての非人道的な横暴をやってのけた人物である。
・あまつさえ、妊娠した女子生徒の堕胎を強要、その最大の犠牲者が自害したのが橘佳織だった。
・敬虔なクリスチャンであった橘佳織は、自分の堕胎が許せず自害してしまう。
・劇場版では葉山秀雄は麻薬中毒であり、それを見られた橘佳織を薬漬けにして隠匿を図った。
●橘佳織の堕胎のエピソードの意義

・礼園女学院という舞台を最も活かした自殺の動機なので、劇場版での改変はシナリオの厚みや重みを軽くしてしまい、クリスチャン関係しなくてもいいいじゃん、一般の学校でも良かったんじゃないかという認識が原作ファンだけでなく、劇場版のみの視聴者にも伝わってしまった。
・これが、amazonのレビューで、不評意見者達が難しいことを記載してるが、本質的な共通認識だと思われる。
・ただ、原作通りにやるというと、このご時世なので空気を読んだともいえるが、ネタ的には 痛覚残留の浅神藤乃(旧姓)の境遇と酷似しており、二度目をやるのもどうかと考えられる。

・浅神藤乃の場合は、完全なメインキャラなので原作をなぞるのは道理である。
・しかし、橘佳織自体は回想シーンだけ登場で、シナリオの事件の意味づけのための立ち位置だったので改変のターゲットとして適任と考えても不思議ではない。
・では、この劇場版 忘却録音では何をしたかったのかという事に行き着く。

●娯楽を追及する要素としての 劇場版 忘却録音
・娯楽といえば聞こえはいいが、購買者や映画視聴者の見たいものを提供し楽しんでもらわなければそれは成り立たない。
・そこで、王道である「恋愛」「バトル」「ヒロインの魅力(萌?)」の路線で改変が行われたと考えられる。

・当然放映時間的な制約もあり、劇場で描けるのは「玄霧皐月と統一言語師と黄路美沙夜」か「葉山秀雄と橘佳織と女学院の視点」か「黒桐鮮花の兄への想いの視点」かのどれかを取るしかなくなる。

・これは、DVDのミニパンフレットでも語られていることだが、当然取るなら「黒桐鮮花の兄への想い」に視点を当てるのがファンへの期待を裏切らないと考える。
・そういった意味で、見方を変えると劇場版 忘却録音は援助交際を強調すると、鮮花の活躍がドロドロとしすぎてしまう。
・また、黄路美沙夜と玄霧皐月とのタブーな愛情をそのまま出してしまうと、劇場版のバトルシーンが生き生きと表現できなかったろう。
・同じ境遇だと鮮花が黄路を見てしまうと、あそこまでの正義ヒーローじみたバトルシーンは難しいという事になってしまう。

●死ななかった玄霧皐月
・原作において、印象的なラストシーンは、玄霧皐月が事件の数日後に学園で女生徒に刺されて命をその後落とすというのがある。
・その女生徒が、黄路美沙夜であるか明かされてはいないが、原作の玄霧皐月は最強設定であったために、印象的な最期である。

・劇場版では、人知れずに姿を消していなくなる。
・これも、鮮花視点で終わらすために、黄路美沙夜と玄霧皐月が兄妹である(かもしれない)という原作設定の終結は不要だからだ。
●劇場版 忘却録音の魅力
・結局のところ、原作とはかけ離れてしまったのだけれども、黒桐鮮花とは何だったのか?を追求すると面白い作品だとわかる。

・近親相姦一歩手前で、両義式という最強の人間であり最大のライバルと一つの事件を解決しようと悩み努力する姿こそこの作品の最大の魅力だと考える。
・また、音楽や映像美も魅力的で、空の境界という作品の空気にマッチしている。

・これらを、当たり前だとか言ってしまう人もいるかもしれないが、それを実現しているだけでも奇跡的である。
・原作ファンと製作者とが同じイメージを共通し抱いているのに近いのだから。
・ここまでの改変をしたんだから、次章殺人考察(後)に アルバさんは確実に復活するだろうぜ。(スタッフなめんな
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